自動チェス人形事件・追憶
絶体絶命。 そんな文字列が東雲の頭の中に浮かんだ。 目の前には大量の警備員。逃げ場はナシ。一体どうやって窮地を潜り抜けようかと考えながら、東雲は人形の頭を一層強く抱き締めた。 絶対に渡さないぞ、と言わんばかりに。 「またヒョコヒョコと間抜けな…
進路希望調査。怪盗にとって、これほど意味の無い紙切れも存在しない。 東雲 宵一、当時高校生。趣味は機械いじり、現役で駆け出しの怪盗。志望校や将来の夢を語る学友たちを尻目に、彼だけは悩むことも、白紙を恥じることもなくただため息だけをそこに残し…
「ほんとムカつく」「一時間くらい前から、それしか言ってないけど」 苦笑いを見せる男は、ネクタイを緩めながら目の前に座る女が持つグラスの中身が既にないことに気付いた。 水曜日。なんともないような曜日に見えて、目の前の女……水守綾にとっては貴重な…